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2016年5月28日開催 第17回 がん診療アップデート 開催レポート

垣添 忠生氏の講演(3)

人生観の変化
昨年12月で妻が亡くなって丸8年になりました。この悲しみは永遠に消えませんがこの悲しみを抱いたまま生きる術は確実に身につけ始めたと思います。
私はがんの臨床家を40年やり若い頃は研究所で基礎研究も15年間夢中でやりました。私自身も大腸がんと腎臓がんの経験者です。がん患者の家族であり遺族であり、国立がんセンターの病院長・総長、今は日本対がん協会会長として国のがん対策に20年間積極的に関与しています。
私はこの経験を私が生きている限り、がん検診の受診率を上げること、がん登録(法整備されて今年の1月から国のがん登録がスタート)、在宅医療を希望する人に届ける体制の整備、グリーフケアを希望する人に届ける体制の整備をなんとか実現したいと願っています。

妻が亡くなってから私の人生観が変わりました。亡くなる5、6年前に一緒に遺言書を作りました。公正証書にしてあります。妻が亡くなったら彼女の遺産は私が引き継いで、私が死んだら遺産は日本対がん協会に全額寄付するということで、公正証書にして銀行に預けてあります。妻が亡くなってから死が怖くなくなって、北海道の釧路川のかなり危険な白波のところを突っ込んでいくという大変危険なところがありますが死んでもしょうがないということであまり動揺しないですし、阪神淡路大震災の揺れを体験する施設が淡路島にあるんですがすごい揺れで机にしがみついているしかないのですが死んでもしょうがないなあと思うだけで死が怖くなくなりました。私も自分が死んだら葬儀は要りませんしお墓も要りませんし、骨は妻の骨と一緒にしてもらって奥日光に散骨してもらおうと思っています。遺品は信頼できる管理会社に任せようと考えています。私も在宅で死にたいと思いますし点滴もなくていいですし枯れ木が倒れるように即身仏のように死にたい、この世から跡形もなく消え去りたいと思っているのですが、私の弟に言わせるとそんなわけにもいかないだろうと言ってますが、そう望んでいます。

「妻を看取る日」という本に対する読者の反応があまりに強かったので「悲しみの中にいる、あなたへの処方箋」という本を書きまして、その終わりに書いているのですが、「妻を見送る体験を経て、わたしは自分の死についても思いを馳せるようになりました。いつか自分が旅立つときがきたら、わたしは自分の骨を、妻の遺骨の一部とともに奥日光の森閑とした湖畔に撒いてもらいたいと思い、その準備をしているところです。粉々になった骨は土に紛れ、春には野草の芽吹きに押しのけられながら、陽光のぬくもりに包まれるでしょう。夏の嵐に洗われ、錦繍の絨毯に抱かれ、純白の深雪にに清められー。」と書いてますが本当にそう思ってます。

陶淵明という中国の有名な詩人がいましたがこの人はすごい酒飲みだったそうですけど、「千秋 万歳の後 たれか知る 栄と辱とを 恨むらくは 世にありしとき 酒を呑むこと 足るを得ざりしを」〈何が損か得かも知らぬし、何が是か非かもおぼえがない、千年も万年もの後に、栄誉だの恥辱だのということをだれが知ることができようぞ、今になって恨めしくおもはれるたった一つの事は、自分がまだ世に生きていたとき十分に酒が飲めなかつたということだ〉という詩や、オマル・ハイヤームの「ないものにも掌の中の風があり、あるものには崩壊と不足しかない。ないかと思えば、すべてのものがあり、あるかと見れば、すべてのものがない。」というような表妙とした人生観というのは私の人生観にぴったりとした感じがします。般若心経に「色即是空 空即是色」という言葉があります。かたちあるものはすべて無、ということだそうですが、非常に私にぴったりきます。
ヒトは10の27乗,10のマイナス35乗メートルの世界に漂う儚い存在
最後に「ヒトは10の27乗,10のマイナス35乗メートルの世界に漂う儚い存在」という話をします。

この世で最大のものは宇宙で最小のものは素粒子です。人間の身長を1〜2メートルとすると、この世で最大の宇宙が10の27乗メートル、この世で最小の素粒子は10のマイナス35乗メートル。人間はこのような途方もない自然界のスケールの中に漂う儚い弱々しい存在に見えます。しかしヒトは60兆個の細胞で構成されていて身体の中のすべてのDNAをつなぎ合わせると太陽と地球を300往復する距離になり、その遺伝子構成は一人一人違います。儚く弱々しい存在に見える私たちは実は一人一人個性を持った強靱な存在であるということが分かります。
スライドの写真
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人というのは、エベレスト登頂を成し遂げたと思えば次は月にいく。逆に海底奥深くに行ったりもする。
スライドの写真
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ある入院生活で体中管だらけのもう先がないと思われていた患者さんが「もう少し生きたい」と望み頑張って、口腔ケアをして食事を食べてリハビリしたらすごく元気になりました。
スライドの写真
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このように、弱く見える人ですがしっかり決意をすると大きな達成につながります。

私はがん経験者を特別視しない社会の実現を目指して活動をしています。

がん経験者は肉体的にも精神的にも社会的にも何重にも傷つきやすい存在です。
がん経験者が、がんになる以前と同じ様な生活を気負いなく営める社会が成熟社会に求められていると思います。

情報が大切な時代です。
正しい情報に基づいて正しい判断をし、正しい行動に繋がることが、がん対策においても重要だ、ということを申し上げまして講演を終わらせて頂きます。
長時間有り難うございました。

大阪南医療センター 森下 まり子 看護部長より花束の贈呈
大阪南医療センター 森下 まり子 看護部長より花束の贈呈

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