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2016年5月28日開催 第17回 がん診療アップデート 開催レポート

工藤 慶太 先生の講演

「肺がん」 大阪南医療センター 呼吸器内科・呼吸器腫瘍内科医長 工藤 慶太
本日はどのようなかたちで肺がんの診断・治療をしているのかということと、がんの薬物療法についてお話ししていきます。
日本では現在年間で男性が5万人、女性が2万人亡くなっているといわれており、肺がんで困っているという方が多いというのが現状です。診断で偶発的に見つかることがほとんどですが、腫瘤が見つかるとまず診断をおこなうために検査が必要になります。いろいろな検査がありますが代表的なものとして、気管支鏡検査という、肺の中の細胞を採ってきてその細胞を顕微鏡で見て病理診断をおこないます。その診断の結果肺がんかどうかという診断をおこないます。

肺がんの種類は細かく分けられます。大きくは、約85%を占める非小細胞肺がんと小細胞肺がんとに分けられ、さらにこの非小細胞肺がんは腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんという三つに分けられます。この分類によって治療方針が大きく変わってくることになりますので非常に大事になってきます。本日はこの非小細胞肺がんの治療についてお話しいたします。
大阪南医療センター 呼吸器内科・呼吸器腫瘍内科医長 工藤 慶太
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がんの治療はこれまでにも色々ありましたが、手術、薬物療法、放射線療法を使いながら、さらには最近では支持療法で精神的ケアも含めて進めていくのが最近のがん治療のやり方となっています。基本的には画像検査を用いて確認していき病期を判定し治療方針を決めていきます。非小細胞肺がんの場合は、Ⅰ期は手術、Ⅱ期は手術プラス術後の抗がん剤治療、Ⅲ期は手術プラス放射線治療プラス抗がん剤治療、Ⅳ期は化学療法のみというのが中心となります。

化学療法についてお話しします。化学療法といってもいろんな薬が出てきてます。作用機序の観点からですと3種類、殺細胞性抗がん剤、分子標的薬、免疫療法になります。
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1つ目の殺細胞性抗がん剤は、点滴などで投与すると3〜4割の方に効果がみられますが、がん細胞だけでなく正常な細胞にも影響しますので髪が抜ける、口内炎が出来る、下痢するなど、良くも悪くも全身の細胞に作用します。最近では副作用を抑制する薬も出てきていますので以前よりも治療効果も副作用抑制も良くなってきています。

2つ目の分子標的薬は、特有の遺伝子を狙った治療薬です。がんといった病気の原因は、繰り返し遺伝子にダメージを与え複数の遺伝子に異常を与え結果的にがん細胞が出てくるといったものです。しかしそのようなタイプではなくドライバー変異といった単一の遺伝子の異常が生じた結果肺がんになるといった病気があるといったことが最近分かってきています。日本人であれば腺がんというタイプの場合、ドライバー変異というのがどのぐらいの頻度で出てくるかというと約半分の人にEGFR遺伝子の異常が出てきて、5%の人はALKがきっかけでがんになるということが分かってきています。これに対する薬は15年前にイレッサという薬が出てきて以降いろいろな薬が開発され、今年はタグリッソという薬が保険適用で認められるようになりました。副作用軽減が図られてきています。このような分子標的薬がどのような機序で効果が出てくるかというと、6〜7割の人において腫瘍が小さくなるのですがずっと効果があるわけではなく、効果がある人の約半分で10〜12ヶ月ぐらいで効果がなくなってくるという限界があります。また下痢・間質性肺炎という副作用もあるのが現状です。

3つ目の免疫療法について詳しく説明します。歴史は1960年にノーベル賞を取られた先生が「人間の中ではいつもがん細胞が生まれているがそれが免疫によって排除されているからがんにならないんです。」と言っています。このようなことから免疫でがんをコントロールできるのではないかというふうに考えました。1970年以降は免疫を活性化させる薬やリンパ球の数を増やすT細胞移入療法が開発されました。しかしたまに効く人がいるがたくさんの人には効果が出ないし、なぜ効いているのかもわからないため懐疑的になっていました。1996年に免疫チェックポイント分子における免疫応答が発見されることで、免疫療法の流れが変わっていきます。免疫チェックポイント分子のアクセルとブレーキと解釈しているのですが、人体に異物が入ってきたと判断すると攻撃指令(アクセルを踏む)が出て異物を排除しにかかり炎症を起こします。だんだん異物が無くなってきたときに攻撃し続けても腫れがひかないので次は攻撃をやめる(ブレーキを踏む)指令を出す、というのが通常の働きになります。そこでアクセルを強くすればがん細胞に効くのではと考え最初はアクセルを強くする薬を開発しました。ところがリウマチなどの自己免疫疾患が悪化することがわかり副作用が強すぎたので開発が中止されました。そこで発想を変えブレーキを小さくする薬を開発しました。そのブレーキにかかわるPD-1抗体の開発が進められました。PD-1抗体が作用すると自分の免疫細胞ががん細胞を攻撃するようになり、その結果がんが小さくなると考えられ、様々な薬が開発され最近ではニボルマブが保険適用で使用可能になりました。ニボルマブの臨床例を挙げますと、非小細胞肺がんで従来の薬に比べて、生存期間が薬三ヶ月伸び、一年生存率が約二倍になりました。ただし効果が出た人は20%の人ということでした。しかし薬の効果が続くのが一年以上と今までの薬より長く効きます。副作用も今までの薬よりは少なく抑えられているのも大きな違いですが、今までの治療薬ではなかった重篤な副作用も出る可能性があるので注意が必要です。問題点は、どういう人に効果があるのかがわかっていない、なぜいずれ効かなくなるのかがわかっていない、マネージメントが定まっていない、価格が高い、ということが挙げられます。
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抗がん剤治療というのは、殺細胞性抗がん剤、分子標的薬、免疫療法という3つの柱を使っておこなっていきます。各々にメリットデメリットがあり、どれも一時的な効果であり限界があります。なので使える薬をすべて上手に使っていくということが、肺がんの薬物療法において非常に大事な点だというふうに考えています。

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