• がん疾患センターについて
  • がん治療の流れ
  • 診療の内容
  • 情報提供
  • 医療関係者向け情報
情報提供
  • イベント情報
  • がん診療アップデート

2016年5月28日開催 第17回 がん診療アップデート 開催レポート

江口 剛 先生の講演

「血液がん」 大阪南医療センター 血液内科医師 江口 剛
皆さんご存じだと思いますが、がんと言えば、大腸がん、胃がん、肺がんが三大がんと言われております。血液がんは、白血病、骨髄腫リンパ腫というのがあり、これらのがんのうちの4〜5%を占めています。高齢化が進む中でこの割合は今後も増えてくると思われます。先程申し上げた「白血病・骨髄形成症候群」は10万人中約20人、「悪性リンパ腫」は10万人中約10人、「多発性骨髄腫」は10万人中約5人、といった割合を示しています。今日はもっとも治療成績が向上している「多発性骨髄腫」についてご紹介させて頂きます。
大阪南医療センター 血液内科医師 江口 剛
スライドの写真
多発性骨髄腫は英語でMultiple Myelomaといいますが、私たちは頭文字をとってMMと呼んでいます。MMは骨髄で腫瘍性の形質細胞が増殖し多くの臓器に影響を与えるため様々な症候が発生しうる病気と言われています。

まず血液細胞についてお話しします。血液細胞といいますと皆さんもご存じの通り、赤血球、血小板、白血球というのがあり、赤血球は酸素を肺から臓器に運びます。そして血小板は怪我をしたときなどに止血する働きがあります。白血球は進入してきた異物から体を守る働きがあります。これらは造血幹細胞から分化して血球のほうに出来てきます。より細かく見ますと幹細胞→リンパ系幹細胞→最終的に形質細胞というものに出てくるのですが、これががん化したものが多発性骨髄腫といいます。

では多発性骨髄腫はどんな病気かと説明します。血液がんの一種で先程の形質細胞ががん化した病気、そしてMタンパクという役に立たない抗体がたくさん増殖する病気、数年掛けて経過をたどるといった病気で、遺伝はしないと言われています。骨髄腫の診断には様々な検査が必要です。骨髄検査では針で皮膚の上から刺して骨の中に含まれる骨髄液というのを採ります。骨髄液の中に含まれている形質細胞が増殖している場合を骨髄腫と診断するのですが、他にもレントゲン、CT検査があり、先程申し上げた役に立たない抗体Mタンパク検査があります。骨髄腫の年齢別の罹患率ですが、恒例になればなるほど男性女性かかわらず増加してきます。そして多発性骨髄腫はすべて悪性なのか、そして治療を開始しなくてはいけないのか、ということなのですが、私たちは検査したときのCRABを調べます。CRABとは(Calcium=高カルシウム血症のC、Renal insufficiency=腎機能障害のR、Anemia=貧血のA、Bone lesion=骨病変のB)の頭文字をとってCRABと呼び、このCRABがある場合は全て悪性と診断し治療を開始することになっています。CRABの症状がなければ経過観察が推奨されています。
スライドの写真
スライドの写真
骨髄腫の症状は、赤血球、白血球、血小板といった正常な血液細胞が作れなくなるため、赤血球が作れないと貧血になりめまい・だるさ・動悸・息切れ、白血球が作れないと感染しやすくなり発熱・風邪・尿路感染といった感染症、血小板が作れないと出血しやすくなる、といった症状がおこります。骨髄腫の細胞がどんどん増えてくると破壊と掲載のバランスが崩れてしまい、骨がもろくなり骨折、特に腰・背中の痛みといった症状が起きます。骨が溶けてしまうため血液中にカルシウムがどんどん溶け出し高カルシウム血症、口が渇く、尿が異常に増える、便秘、といった症状が増えます。そして先程申し上げた役に立たない抗体Mタンパクがどんどん作られるために正常な抗体が少なくなって感染しやすくなり、Mタンパクが貯まっていくので血液をどろどろにしてしまう過粘稠度症候群、頭痛・目が見えにくくなるといった症状が起こる。そして臓器も浸潤し腎臓・心臓・神経・消化器等に沈着し腎障害・アミロイドーシスが起こります。そして診断時に58%、初診時の77%と高頻度に見られる症状として骨病変が認められ、痛みの部位としては胸・背中・腰・頭蓋骨・四肢の骨が挙げられます。そして臨床的特長としまして、患者様の96%で骨髄中の形質細胞が増加しこの増加が診断時に必要な臨床的な所見となっています。そしてX線所見で頭蓋骨に穴が空くといった所見がMM患者の約三分の二以上で認められます。

骨髄腫を大きく二つに分けますと、症状がある骨髄腫(症候性骨髄腫)と症状がない骨髄腫(無候性骨髄腫)があります。基本的に症候性骨髄腫であれば治療を開始し無候性骨髄腫であれば経過観察すると言われていますが、無候性骨髄腫が症候性骨髄腫に移行する確率が5年で50%、20年で80%と言われていますので無候性骨髄腫であってもMタンパクが増えてきたり形質細胞が増えてきた場合などは治療の開始となります。
スライドの写真
スライドの写真
次に骨髄腫の治療についてお話しします。自家末梢血幹細胞治療というものがりますが造血幹細胞移植という治療のひとつなのですが、造血幹細胞移植というと骨髄バンクに登録して骨髄をもらって移植をするというイメージがあると思いますが、自家末梢血幹細胞治療は自分の血を採って自分の体に戻すという治療のひとつです。化学療法を行った後に白血球を増やす注射(G-CSF)を投与して造血幹細胞を骨髄から末梢血に移動させます。そして透析を回すような機械で造血幹細胞を取り出します。一旦取り出した造血幹細胞は冷凍保存しておき大量にメルファランを投与するときにこの造血幹細胞を戻すといった治療のひとつです。少し難しいのですがボルテゾミブという薬があるのですが、これはプロテアソームといって細胞の生存・増殖に必要なタンパクの処理をする酵素のひとつでボルテゾミブはこれを阻害することでがん細胞の分裂・増殖を抑制します。サリドマイド・レナリドミド・ポマリドマイドという薬があるのですが、これらはIMiDsと呼ばれ腫瘍細胞増殖抑制作用・免疫賦活化作用といた薬理効果が報告されている薬です。

骨髄腫の治療と歴史は、1950〜1990年代までは化学療法しかなかったのですが、1995年代からは自家末梢血幹細胞移植といった治療が出ることで、今までは病気の勢いを抑えることしか出来なかったのが、Mタンパク・形質細胞といった病気を消してしまうといった状態に持って行くことがことができています。そしてサリドマイド・レナリドミド・ポマリドマイドという薬が出ることで、より深い寛解まで病気を抑えることが出来るようになっています。
年次別の生存率は、化学療法しかなかったときは予後が変わらなかったのですが、自家末梢血幹細胞移植が出てくることで予後が伸びてきてサリドマイド・ボルテゾミブという薬が出てくることによってさらに予後の改善が認められます。
2006〜2010年にかけてレナリドミドという薬が出てくることで骨髄腫の全生存率の予後が増えてきまして5年生存率が今では66%になりかなり病気を抑えることが出来るようになっています。 そして現在開発中の新薬剤なのですが、すでに10種類以上の薬が出来ており、今までは基本的に予後不良の染色体異常のある場合はほとんど薬が効かなかったのですが、このような薬が出ることで病気自体を消すといったことまで期待されています。ただし薬は副作用がありますので適切なタイミングで有効に使うことが我々血液内科の指名と思っております。
まとめですが、骨髄腫はMP療法・VAD療法といった抗がん剤しかなかった時に比べて、自家末梢血幹細胞移植や2000年以降に開発された新薬剤によって寛解に到達できる症例が増えたことで生存率の改善が見られるようになっております。現在、IMiDs、プロテアソーム阻害剤、モノクローナル抗体などの複数の新規薬剤の開発が、今後数年単位で大きな飛躍が見込まれています。

ページの先頭へ