2017年のがんの死亡率と2014年のがんの罹患率ですが、2017年の大腸がんでの死亡率は2位、2014年の大腸がんの罹患率は1位ということで大腸がんの患者さんは非常に増えています。
我々は手術で大腸がんを治すのですが、一般的に手術療法は、根治性と機能の温存というのが天秤にかけられます。
例えば大きな手術をしてがんは治ったけどもその後の体の負担が大きくなった、逆に体の負担は多くなかったけどがんが再発してしまった、という事ではよくありません。理想的ながんの治療は、体の負担が少なくがんの再発も少ないというものと考えます。十数年前から大腸がん治療ガイドラインというものができています。そういうことで理想的ながんの治療というものは、根治性と機能の温存がバランス良く、進行度によって適切な治療を行うことが必要になってきます。
本日は「体に優しい大腸がん治療」ということでお話しさせていただきます。
体に優しい治療として、手術ではなくお尻からカメラを入れておこなう内視鏡的治療でがんの治療をする方法や、カメラで取れない様な深さまで進行しているがんを取り除く腹腔鏡手術があります。大腸の構造を理解していただきたいのですが、大腸は、盲腸・上行結腸・横行結腸・下行結腸・S状結腸・直腸という1メートル50センチぐらいの筒状の組織です。その筒状の壁を見てみますと、拡大すると5つの壁に分かれています。
がんは細胞の遺伝子の異常でできているのですが、粘膜というところまでで止まっている場合はがんを取ってしまえば治ります。それを内視鏡で行い、内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic mucosal resection:EMR)といいます。がんを生理食塩水で下の組織から浮かせてカメラで切除して回収を行います。もう少し幅の広い腫瘍の場合はがんを剥がしてくる内視鏡的粘膜下層はく離術(ESD)という方法があります。このように内視鏡で行われるのがいちばん体には優しい治療です。
次に、がんがもう少し深い層に入ってきた場合は、腫瘍だけを取っても治りません。というのはがん細胞がリンパ管を通ってリンパ節というところに転移をしますので腫瘍を取るだけではだめです。このように二番目の層にがん細胞が入った場合は、そのがん細胞が行きそうな場所、リンパ節も一緒に取るという治療方法になりますので腸とリンパを含んだ組織を取り除きます。これを体に優しい方法で行っております。昨日もテレビでやっておりましたが、白い巨塔で財前五郎がやっていた腹腔鏡下手術です。
腹腔鏡下手術を簡単に説明いたします。おヘソのところから筒をいれます。筒から二酸化炭素を入れるとお腹が膨らみます。膨らんだお腹に医療用テレビカメラを入れてモニタに映します。そうすると体の中の状態が直接見るのと同じ様にモニタに映し出されます。さらにそのカメラを見ながら筒をいくつか入れ、その筒から、腸を持ったりするものや血を止めながら切る超音波メスを入れ、腸とリンパを切除するといった手術です。腹腔鏡下手術は傷が小さく痛みも少ないということはわかっていますし、術後の回復も早く、手術をされた患者さんの精神的にも良いと言われています。そして予後は開腹術とほぼ同じであります。
この手術が最近、より安全になってきた理由は、モニタの解像度が良くなってきたことがあります。当初のモニタはブラウン管でしたが、ハイビジョン、フルハイビジョン、4K、8Kと良くなっており、拡大した時でも非常に綺麗で繊細な画像で見えるので、手術スタッフ全員でよく見ながら手術を共有でき、より安全な手術ができるということです。
ただ腹腔鏡下手術だから全て良いというわけではなく、大腸がん手術というのは大腸というバイ菌がたくさん居るところの手術ですので、傷が膿んだり腸を繋いだところが膿んだりお腹の中に膿が溜まったりといった感染症合併症がおこると、予後が悪くなる(生存する率が落ちる)ということがわかってまいりましたので、小さな傷でも合併症をおこさないということに注意することも体に優しい治療と言えます。
当院の大腸がん手術の合併症の頻度ですが、2012年から6年間のデータでは、724人中34人、4.8%でありました。この成績は、日本の平均の成績に比べて4割ぐらいに抑えられております。その結果だと思いますが2018年の大腸がん手術の5年生存率データでは、全国の上位にランクインしています。
当院では日本消化器内視鏡学会の専門医・指導医が11名おり、昨年の大腸がんの内視鏡的切除は52人、腹腔鏡下大腸がん手術は95人に施行しております。2004年から腹腔鏡下大腸切除は1100人の方におこなってきましたが、合併症は非常に少なく良好な成績をおさめています。
これからも合併症のないように、ご高齢の方も増えていますのでその方々に優しい治療を目指していきます。
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