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2019年5月25日開催 第20回 がん診療アップデート 開催レポート 緩和医療について

高濱医師の講演

「ゲノム医療について」 近畿大学奈良病院 腫瘍内科 高濱 隆幸
今日は「ゲノム医療について」というニュースでも最近多く取り上げられてきておりますが、検査方法と治療についてのお話を、皆様にできるだけ噛み砕いてお話しさせていただければと思います。

自己紹介をさせていただきます。私は香川で生まれ育ち医師になり、今から6年前に大阪へ参りまして、近畿大学付属病院の腫瘍内科で検診を続けて参りました。現在はがんの抗がん剤の専門医であるがん薬物療法専門医、呼吸器専門医としてがん患者さんの診療にあたっております。それと昨年までは『ゲノム生物学』という研究室で研究をしており、その縁もあって日本臨床腫瘍学会で、ゲノム医療というものを患者さんにわかりやすく伝えるための「ゲノム医療の従事者」という職種があるのですが、その方達と一緒に「どうずれば患者さんや一般の方々にゲノム医療についてよく理解していただけるのか」ということを主軸としてやっております。
それでは早速ですがゲノム医療についての話を進めて生きたいと思います。
「ゲノム医療について」
近畿大学奈良病院 腫瘍内科 高濱 隆幸
これまで、日本においてがん患者さんを取り巻く環境というのは必ずしも恵まれていませんでした。薬がなかなか承認されないとか、がん医療に関わる人材が世界各国に比べて不足している、などといった問題です。

それを、なんとかどこの地域にいても均一な治療が受けられるようにということで、がん対策基本法の整備を始めとしまして様々な対策が取られてきました。その一つとして、究極のがんの個別化医療、患者さんごとに応じた治療法の選択ができるということが「ゲノム医療」と言われています。最近ではNHKの通常の放送の中でもゲノム医療の特集が組まれるようになり、ゲノム医療の特集が組まれると翌日はゲノム生物学研究室の電話が鳴りっぱなしになったりという事態になるような現状です。ただゲノム医療が実際に何をしているのかということについては一般の皆さんには伝わりにくく、進歩がかなり早いので医療者の中にもこの状況を正確に把握しているのはなかなか難しいことになっております。この様な機会を通じて一緒に勉強していければと思っております。

まずゲノムとか遺伝子ということをお話しするときに一般の皆さんから訴えられる相談は、「単語が訳がわからない」と仰る方が多いのです。そうなると話しがつまずいて釈迦に説法になりますので、少しおさらいをさせていただきます。
スライドの写真
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「がんは遺伝子の病気である」とよく言われています。通常皆様が持っている細胞の中には核というところがあり、どの様な仕組みで体が出来上がっているかという遺伝情報を詰め込んだ染色体というものが入っています。その中身をさらに紐解くとDNAという「あなたの体はこう言った構造でできていますよ」といった構造の説明書のようなものがあります。人間は体の一部が古くなったときにそれを新しく作り変えるという作業をする訳ですが、設計図からRNAという情報を書き換え、最終的にタンパク質になり、体が出来上がっていく、といった仕組みになっています。これは正常な人間の体を作っている仕組みになります。
ところが私たちが生活する中で、年齢を重ねて言ったり、放射線の被曝、紫外線、タバコ、お酒、などの色々な問題があるでしょうが、それが原因でDNAに傷がつくことがあります。通常の場合は問題なく修復されるのですが、中には間違った情報がずっと伝わっていくことがあります。設計図からRNAに書き換える時に間違ったものに書き換えられ、実際にタンパク質としてものとしてできあがったときにおかしなものが出来上がってくることがあります。これががんが出来上がってさらに増殖していくひとつの仕組みとなっています。
近年までのがんの研究で分かってきたことというのが、がんを作ろうとする傷がついた遺伝子は増殖のアクセルと表現してます。通常はがんを治そうとする命令も同時に働きますので、その両者はうまくバランスがとれているのですが、遺伝子に傷がつくことが重なりますと、がんが増殖するというアクセルがずっと踏まれ続けるといったことが起こり、がん細胞が増殖する、ということになっています。

ゲノム医療というのは、こういったがんを増殖させようといった遺伝子のアクセルを止めてあげることを目的としています。
近年の研究において全身のあらゆるがんにおいてがんの原因遺伝子となるものがたくさん知られております。全身どの内臓にも腫瘍の増殖をしろという原因となる遺伝子の異常というのがたくさん見つかっております。そしてゲノム医療というのは、この見つかったがんの原因となる遺伝子の異常をピンポイントで抑え込むことによってがんの増殖を抑え込むといったことを目的とした医療です。
スライドの写真
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ところが問題点もたくさんあります。遺伝子の異常というのはたくさんありますので、その遺伝子の異常をひとつひとつ調べていくと非常に手間とお金と時間がかかるわけです。日本においても遺伝子の異常をひとつひとつに対して、たくさん遺伝子検査が承認されております。ところがこれをやっていると何かと大変です。肺がんの例ですが、例えば一つ目の遺伝子の検査をしました、あなたは異常ありません、ハズレ。では次の遺伝子、これもハズレ、三つめ、四つめ、五つめ、六つめ・・・こんなことをしていたら何ヶ月経ってもあなたの遺伝子異常はわからない、しかも毎回その度にお金もいっぱいかかる、という形で非常に問題になっていた訳です。これだと実際の現場で使い物にならないということで、我々もこれまでの悩みでした。そのような過程を経て、今ようやく使われる様になってきた次世代シークエンサーという機械があります。この機械は私もよく使ってきました。次世代シークエンサーというものは一気に複数の遺伝子情報を同時に一回の検査で調べることができます。最近では価格が安くなってきて現場でも使われる様になってきました。近畿大学では2013年からこの様な機械を用いてがん患者さんの遺伝子の異常を調べるということを、国立がん研究センターとほぼ同時期に開始をしています。これまでも近畿大学だけでなく大阪南医療センターの患者さんにおかれましても、共同研究というかたちで測定させて頂いた実績もございます。

この次世代シークエンサーというものを用いた遺伝子検査というものはどのようになっているかというのをご紹介します。
まず必要になってくるのががんの診断に用いられたがん細胞の塊を検査に用います。がん細胞の塊の中からRNAやDNAという遺伝子の設計図となるものを抽出します。それを次世代シークエンサーという機械で分析にかけると、「あなたのがんの原因遺伝子はこれですよ」という分析結果が一気に出てきます。その結果を人が読んでわかる形にレポートとして作成し、主治医の先生や患者さんにお返しします。

レポートを作る際には臨床遺伝専門医であるとか、遺伝カウンセラーとか看護師、薬剤師といった多くの職種が集まって、遺伝子の異常をどうやって患者さんに説明するか、というのを相談してから返す様にしています。それには理由があります。多くのがんの原因遺伝子はがん患者さんその人の中にだけおこった遺伝子異常ですので、多くは子孫や子供には遺伝しません。ところが中には家族性という、ずっと遺伝をしてしまうがんの原因遺伝子があります。アンジェリーナジョリーさんが乳がんの原因遺伝子を持っていたとニュースになりましたが、このような情報を患者さんに伝えることは患者さんに大変な負担になることも考えられるので、先程申し上げたメンバーで相談し慎重に返却しています。そういったこともあり、このゲノム医療というのは、現時点ではすべての病院やどこでもできるといったことにはなっておりません。
スライドの写真
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国の施作としてまずは集約化をして、日本全国で11箇所の中核病院というものを策定しました。それに紐づく連携病院というものは最新の情報では156箇所の病院が選定されています。ゆくゆくは日本全国どこでもできるようにしていこうということになっています。
さて、皆さんががんの遺伝子パネル検査を受けたいとなったらどこに行けばいいか。この大阪府で現時点で遺伝子検査を受けられる病院は、ここから近いのは近大病院になります。大阪南医療センターの先生方とはよく連携させて頂いておりますので、主治医の先生にご相談いただければ、近大病院にスムーズに連携させていただきます。実際は大阪大学の方にいただいた検体を送り測定をしていただくということになっております。
先進医療という枠組みで進められており、患者さんの自己負担が発生します。金額は25万円ということで決して安くはないですが、民間医療保険の先進医療特約等を付けておられる方は負担がなくなる方もおられるかと思います。まずご相談いただければと思います。

大阪大学のホームページを見てどんな方が受けておられるかを見てみます。まずひとつ目は、診断された時点ですでに標準的な治療方法がないとされたがん患者さん。その方は診断後すぐこのような検査を受けることが可能です。二つ目は、標準的な抗がん剤のメニューとして決まったものがあるがそれが効かなくなった、もしくは効かなくなりそうでこれからも抗がん剤治療を受けたい、と考えている患者さん。この場合も研究や自費診療などいろんな枠組みで適格性で受けられるかどうか変わってきますので、主治医の先生によくご相談ください。

がんの個別化医療、患者さんごとに適切な医療を受けていただくということに向けて、ゲノム医療というものが実際に始まりました。一遺伝子一個の検査では間に合わなくなってきているということ、ゲノム医療を受けるための検査のことを遺伝子パネル検査と呼んでいること、先進医療という枠組みで一番手っ取り早くこの検査が受けられる様になっていること、を今日はご紹介しました。
他の保険診療や自由診療については今日は時間の関係で割愛致しましたがいろんな枠組みが今はあります。この遺伝子検査を実際に受けることができるかどうかについては、主治医の先生とよくご相談いただければと思いますが、近畿大学病院がん相談支援センターでは地域のご相談も受けておりますので、もし主治医の先生と話ししてもよくわからない場合は、いつでも相談いただければと思います。

>> 近畿大学奈良病院 腫瘍内科

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