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2017年5月27日開催 第18回 がん診療アップデート 開催レポート がんの予防・早期発見

陰山 麻美子 先生の講演

「がんと栄養」 大阪南医療センター 主任栄養士 陰山 麻美子
毎日の生活の中で食事や栄養のことを大切に思っておられる方はたくさんおられると思います。
今日は治療する上でなぜ栄養療法が大切なのか、どのようなタイミングで栄養のことを考えていけば良いのだろうか、ということをポイントにお話しさせて頂きます。

はじめに、がん患者様に対する栄養療法の歴史的背景として、少し前までエネルギーの増量自体が腫瘍の増殖や促進する可能性があるとして、積極的な栄養管理を控えられていたという背景があります。しかしながら、がん治療の発展と共に栄養に関する医学的な報告も出されており、最近の研究ではエネルギーの制限はがんの発育を抑制しないということが分かってきました。
がんに罹ると患者様の身体の中では次のような代謝変動がおこっています。正常細胞だけでなくがん細胞もエネルギーを消費します。がん周辺の免疫細胞より炎症を促進するタンパク質、炎症性サイトカインが発生し代謝異常がおこっています。また治療による体へのダメージも大きいためさらにエネルギーを消費している状態になり、栄養状態の低下に繋がりやすい状態になっています。がん悪液質とは悪性腫瘍の進行に伴って栄養摂取のデータだけでは説明することができない羸痩(るいそう)や体脂肪や筋肉量の減少がおこる状態です。悪液質は治療の継続性や有効性、生存期間にも影響する病期に依存しない予後不良因子といわれます。膵臓がんを対象にした研究では10%以上の体重減少、全身性の炎症反応、食事摂取量の低下が、がん悪液質の因子だと特定しています。
大阪南医療センター 主任栄養士 陰山 麻美子
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がんにおける栄養不良としてがん患者様の約半数が何らかの体重減少を経験しています。がんの部位別に見た体重減少の報告を見てみると、消化器がんのみならず様々ながん種で体重減少がみられています。栄養管理するメリットとして体重減少のみられる患者様と体重は維持されていた患者様を比べますと、体重が維持されていた患者様の方が治療における合併症が少ないこと、がん治療に対する反応が良好であること、活動性が維持されていること、生存率が高い、といったメリットがあげられます。すなわち栄養療法による体重維持はがん治療において極めて重要な治療戦略だと言えるのです。
では実際にどれくらいの栄養量が必要なのでしょうか。必要な栄養量の算出方法はいくつかありますが、今日は実測値に基づいた簡便な算出方法、活動量×標準体重の式で計算してみます。
がん患者様の代謝状態は個々によって異なりますので、代謝の状態や治療の侵襲度を考慮して算出してみます。基本的には1日体重1キロあたり25〜30キロカロリーを活動量として掛け合わせています。例えば身長が150cmくらいの方の場合この計算では1400キロカロリー程度、身長が160cmくらいの方の場合この計算では1600キロカロリー程度、身長が170cmくらいの方の場合この計算では1800キロカロリーという値になります。タンパク質や脂質や炭水化物といった三大栄養素は健常時と同様に決定します。体格に見合った栄養量を知り充足していくということが栄養管理の基本的な考え方になります。

そしてがんと緩和ケアにおいてぜひ知っておいて頂きたいことです。緩和ケアはがんが進行した患者様に対するものだけではないということです。重い悩みを抱える患者様やその家族ひとりひとりの体や心など様々な辛さを和らげより豊かな人生を送ることができるように支えていくケアのことをいいます。がんに罹っている半数以上の方が5年以上の生存率を得ているといわれています。ですので積極的ながんの治療時期、再発の時期など苦痛緩和は大変重要になります。
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外科周術期の栄養管理についてお話しします。周術期の栄養管理では手術創の治癒や感染症の防御、手術からの早期回復を目的に栄養管理を行います。そのためには術後の合併症を防ぐということが最大のポイントとなります。術後の合併症を最小限にするという考え方では、栄養管理の中では腸を使って栄養管理を行う経腸栄養という考え方が軸になっています。欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)のガイドラインでは、腸が使用できる場合は出来るだけ腸を使った栄養管理が望ましいとされています。経腸栄養という言葉はあまり馴染みがなく違和感を覚える方も多いかも分かりませんが、普段私たちが口から食べて栄養を吸収しているということも、広い意味では経腸栄養に含まれます。

腸管粘膜の防御機能についてお話しします。健康な小腸の粘膜細胞は拡大すると絨毛と呼ばれる絨毯の毛足のようなひだに覆われています。この毛足をすべて広げると人の体の中はテニスコート一面分もの面積に及ぶといわれています。絶食下で化学療法を行った3日目の状態では、通常時に比べ絨毛が下がっていることが分かります。4日目には粘膜が脱落し腸管の萎縮がみられています。腸管は「内なる外」と表現されることがあるのですが、身体の中にあって日々ウイルスや病原菌と接している場所でもあります。絨毛が減少することでこれらの感染のリスクは高まりますし、吸収できる栄養素も少なくなってきます。腸管は栄養素の吸収機能とともに最大の免疫器官ともいえます。そして栄養管理の投与経路の選択として欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)のガイドラインでは、食事による栄養の強化について示されています。経口摂取量で十分な栄養が摂れない場合は、補助的に栄養剤を摂取する。頭頸部がんや食道がんまたは嚥下障害があり口から栄養摂取することができない場合、チューブや胃ろうなどにより径管栄養をおこなうこと。腸管の狭窄などにより腸が使えない場合は、点滴による栄養摂取、静脈栄養が選択として示されています。
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免疫療法についてです。エネルギーを適切に摂取するだけでなく特定の栄養素を含んだ栄養療法を行うことで免疫機能を強化し、感染性の合併症を軽減する免疫医療という概念があります。アルギニンは条件付き必須アミノ酸のひとつで免疫機能の調整作用と生体防御機能を高める効果を有しています。有効性に関してはアルギニンの投与によって術後の合併症が軽減するという効果が認められています。グルタミンはアミノ酸の一種で小腸の上皮細胞のエネルギー基質になります。粘膜の修復作用を持つことから腸管のバリア機能の維持など腸管免疫の賦活に寄与していることが報告されています。n-3系の多価不飽和脂肪酸に属するエイコサペンタエン酸(EPA)は悪液質に関与する炎症性サイトカインの働きを抑制する効果が認められています。栄養状態は術後の合併症の発生に大きく関与しますので、周術期の栄養管理では術前より免疫医療を強化することで術後の合併症の原因となる病原体の侵入・増殖を抑制することができます。

次に化学療法・放射線治療時の栄養療法です。化学療法では増殖の早い幹細胞に作用して効果を発揮します。放射線治療でも治療対象となる部位のがん細胞に効果を発揮しますが正常細胞にもダメージを与えてしまいますので、しばしば副作用の出現がみられます。緩和ケアで関わった血液内科に化学療法目的で入院された40歳代の女性の症例をお示しします。化学療法の5日目に全身倦怠感があり1週間目には口腔内の乾燥を自覚、2週間目には口内炎も複数出現し、3週目には口腔内がただれてしまい口の中が痛くて食事をすることができなくなった症例で、緩和ケアのサポートチームへは食欲不振と口腔内の疼痛のコントロール目的で依頼がありました。入院時より化学療法の副作用として口腔粘膜障害が予想されていましたので、うがいや口の中を清潔にする口腔ケアが毎日実施されていました。副作用の出現と共に経口摂取量が徐々に少なくなっています。口の中が痛くて食べることが辛いということでしたので、口当たりの優しく粘膜を修復する働きのあるドリンクタイプの栄養剤をおすすめしました。飲み方としては口の中に広げないようにストローで一口ずつ飲むことをおすすめしました。病院食は欠食が続きますが栄養剤は続けて飲むことができています。ご本人からも「これが飲めるんだったらゼリーも食べられるかも知れないな」「果物も食べてみようかな」という前向きな意見も少しずつ聞かれるようになり、32日目には食事が再開され42日目には食事だけで必要な栄養量を摂取することができ、点滴からも離脱することができ退院することができました。

このような症例のように、副作用により食事量が低下している場合や食欲不振が見られる場合は食事の工夫が重要となってきます。当センターではレインボー食という食事の種類があります。普通の食事と比べ食べやすさを重視しているため、エネルギーも少なく栄養素を充足できる内容ではありません。けれども食べるのが困難な時期に少しでも口から食べられたという喜びや食べられるという自信につながれば、という思いがあります。化学療法・放射線治療時の栄養療法では、副作用の出現に応じた食べやすい食事の工夫、そして食べられるときに食べられるものを少しでも食べるということがポイントになってきます。
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がんを防ぐための十二箇条として国立がんセンターから次のような内容が示されています。食事に関係する部分として次の3つがあげられています。(1)がんとの因果関係が明らかになっているバランスのよい食事(2)塩辛い食品は控えめに(3)野菜果物は豊富に この3つのポイントです。
バランスの良い食事とは毎食、主食・主菜・副菜を揃えて食べることです。摂りすぎるとがんのリスクを上げてしまう食品もあるためそれらのリスクを分散させるためにも、健康な体を作るためにも、そしてがんの治療の効果を得るためにも、偏りのない食事にすることが大切です。また塩分の過剰摂取は胃がんの発生リスクを高めることも分かっています。調査の結果では目標塩分摂取量より男女とも2グラムほど過剰傾向でした。ですので普段の生活の中であと2グラム塩分を減らすということを意識してみてはいかがでしょうか。野菜や果物にはビタミン、食物繊維、ポリフェノールなど、がんの発生を抑える働きのある要素が豊富に含まれています。こちらも調査の結果では目標の350グラムより60グラムほど少ない結果でしたので、毎日のお食事の中に野菜のおかずをあと一品、果物を一品増やしてみてはいかがでしょうか。

最後にがんと栄養の付き合い方ですが、日々の食事を大切に、そして病期に見合った食事・栄養の取り方を心がけ、生活の質を豊かに維持されることを願ってやみません。

>> 大阪南医療センター 栄養管理室

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