長尾充子先生の講演
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今日お越しの方の中には、がんと診断され現在治療中の方、過去に治療を受けられた方、そしてまだがんを経験していない方もいらっしゃると思います。もし、がんと言われたらどうでしょうか。「まさか私が」「何かの間違いだ」「なぜ自分だけこんな目に合わなければいけないのか」「何か悪いことをしたのか」「もう何もできないのか」「こんなに頑張ってきたのに」と、がんと診断され辛い気持ちになるのは当たり前です。しかし自分の存在すべてががんになった訳ではありません。がんは自分の身体の一部におこっていることで、それまで大切にしてきたことを全て諦める必要はございません。ですのでがんになったときに一体どんな風に考えどういう対応をしていけば良いか、ということについて少しお話しさせていただきます。
治療を受けるための準備としていくつかのポイントをお示しいたします。まずは病気の理解としては、病気や検査についての説明を十分に受ける。不安や疑問に思ったことを医療者に尋ねることです。治療の選択としては、治療の目的・効果および副作用を理解する。治療方法を納得して決めることです。治療の準備としましては、治療開始の予定を理解する。周囲の人へ伝えておくことを整理する。治療にかかる費用、保険や各種制度について必要な手続きをすることです。主治医の先生や看護師など直接患者さんを診ている医療者は、ひとりひとりの状態に基づいて最も適した情報を提供してくれる存在です。また治療の後遺症や痛みへの対処法などについても教えてくれるはずですので、どんどん質問をしてください。そしてこの時期でも緩和ケアを受ける対象になります。緩和ケアというのはがんの治療と平行して、がんが原因でおこる痛みや悩みや辛さに様々な方法で対応していきます。また患者さんが社会生活を送る上で抱える悩み、あるいはご家族の悩みなど、がん患者さんの生活全体の悩みを含めて対応していきます。緩和ケアはがんの状態や時期を選びません。皆さんの中でがんが進行してから受けるものというふう?イメージをお持ちの方はおられませんか?決してそうではありません。もしそのようにお考えの方がいらっしゃいましたら今日はその誤解だけでも解いていただけたらと思うんです。がんと診断されたときのショックや手術や抗がん剤治療、放射線治療に伴う痛み、身体の辛さ、がんという病気を抱えていることによる心理的不安や不眠など、治療中のあらゆる期間の辛さや悩みに緩和ケアは対応します。ですので、できるだけ初期から積極的に取り入れてもらいたいと考えています。
がんという病気では、診断や治療そのあとの療養など、深く医療者と関わり話合っていくことになります。診断や治療のことなど患者さんの病状について最も理解しているのは担当医や看護師になります。一方で患者さんご自身の痛みなどの自覚症状や困っていること、心配なことなどは患者さんご自身にしか分かりません。納得しながら治療やケアを受けていただけるように、患者さんご自身の状態について率直に伝えて関係を築いていくことが大切です。医療者と上手に対話するコツですが、困ったことや分からないことは素直に伝えると何度か対話を重ねる毎に信頼関係が築いていけるはずです。そして診察のとき信頼できる人に付き添って貰い知りたいことをしっかり聞き取る準備をしてください。面談の前に聞きたいことを箇条書きにしたメモを持参し、聞き漏らすことがないようにすると非常に効率的に面談が出来ます。また看護師やがん相談支援センターの協力を得ることも必要です。がん相談支援センターとは、がん診療連携拠点病院に設けられています。全国のどこでも質の高い医療をご提供することを目指して厚生労働省により全国にがん診療連携拠点病院が指定されています。こちらの南河内医療圏におきまして?、国立病院機構大阪南医療センターと近畿大学医学部附属病院がそれにあたります。がん相談支援センターにはいろいろな情報があります。地域の医療機関や施設のこと、医療機関と連携して継続的に治療を受けられる近くの医療機関のこと、緩和ケア外来や緩和ケア病棟のこと、在宅医療や助成制度のことなど、患者さんと家族が活用できるところがあるか、がん相談支援センターに聞いてみてください。これは、がん相談支援センターがある病院に掛かっていなくても、患者さんや家族からのがんに関する様々な相談を無料で受けることが出来ます。いづれの病院のホームページにも連絡先が掲示されていますのでご確認ください。
現在多くの医療機関は、高度な医療を専門的におこなう病院や、日常的によく見られる疾患の治療をおこなう病院や診療所、健康診断など予防を含めた継続的な健康管理をおこなう医療機関、在宅医療や在宅緩和ケアなどを主に療養生活を支える医療機関、緩和ケア病棟がある医療機関など、それぞれが専門的に取り組む運営をして役割を分担し、地域全体でお互いに連携しながら患者さんや家族を支える仕組みに変わってきています。ご自身がどのような暮らしをしていきたいかという希望とその病状に合わせて医療者と相談しながら、適切な医療機関を選択することが重要となっています。
そこで本日お越しの皆様方は自分らしい生活についてどのようにお考えになりますか?病気と付き合いながら、またはがん治療を受けながら生活することでどのような生活の変化があるのでしょうか。治療のための検査や通院が必要になる、治療後の後遺症や合併症についての対応が必要になる、体調の変化によってあまり無理が出来ない、病気や治療によるストレスや辛い気持ちがある、家族や周りの人たちとの関係が気になる、このようなことが思い当たると思います。こんなに生活が変わるのに、もっと病状が進行したら家で過ごすのは無理だとお考えでしょうが大丈夫です。家で十分過ごすことが出来ます。そこで在宅療養するための準備が重要です。まずはあらかじめ予想される体調の変化を医師や看護師に聞いておくこと、短期の外泊を試みたり早い段階で在宅医や訪問看護師と面識を持つなど、少しずつ実際の環境に慣れるようにすること、等です。そしてがん相談支援センターと患者支援センターを上手く活用していただきたいです。入院中から緩和ケアチーム・緩和ケア外来を中心に患者さんのお体についての辛さや心についての問題について一緒に考えその方達が連携と取りやすい環境を構築しています。病気を治?ことだけに目を向けてしまいがちですが、病気であっても自分らしい生活を送ることができます。皆様方が大事にしていることを大事にこれからもできるような医療を目指して私たちも一緒に連携しながら頑張っていきたいと思います。
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