講演:がん治療の最前線(3)
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次は、当大阪南医療センター がん疾患センター部長 前田裕弘から「血液がん治療の最前線」をテーマにご講演を行っていただきます。
最初に血液のがんについて説明します。特長は塊を作らない流動的な腫瘍だということです。白血球ががんになれば白血病、赤血球ががんになれば多血症、血小板ががんになれば血小板血症になるのです。
がんの薬物療法は中川先生が仰られたように、がん細胞をやっつけることができるというのが最大の条件、もう一つは副作用がないものが一番良いのです。これを満たす物が血液疾患のなかでおこなわれている分子標的療法です。 ここからは慢性骨髄性白血病、慢性骨髄増殖性疾患、成人T細胞白血病の3つの疾患とそれぞれの治療薬についてご説明しますが、皆様は『寛解』という言葉を聞かれたことがあると思います。『永続的か一時的を問わず、病気による症状が好転または、ほぼ消失し、臨床的にコントロールされた状態を指す。すなわち、一般的な意味で完治せずとも臨床的に「問題ない程度」にまで状態がよくなる、あるいはその状態が続けば寛解したと見なす。』という意味です。『治癒』とは『体に負った傷、あるいは病気などが完全に治ること、治療の必要が全くなくなった状態』を意味します。『寛解』から『治癒』に至るまでの間が分子標的療法の最大のターゲットであります。
まず慢性骨髄性白血病です。遺伝子染色体異常が原因です。2001年にグリベックの登場で分子標的療法が幕を明けました。2009年にタシグナ、2010年にスプリセルが開発されグリベックよりさらに強力な治療薬となりました。インターフェロンと抗がん剤で治療する以前の療法だと55%しか血液学的にはよくならなかったのが、グリベックだと94%。染色体異常消失が8%だったのが74%というふうに非常によい成績が得られました。ほぼ治癒に近づいた方でグリベックを中止したところ10例中3例ありましたが、再発後に再度グリベックやタシグナやスプリセルを再度飲み始めるとすぐに白血病細胞が減るということがわかりましたので、ほぼ治癒に近づいた方には一旦薬を中止することをオススメしています。再発しない患者さんの特徴としましては、最初の6ヶ月間でグリベックの反応性が非常によい方、グリベックの血中濃度が非常に高い方は絶対に再発しないと言えます。現在はグリベックよりタシグナやスプリセルを使うことによってより治癒する確率が高くなっています。
次は慢性骨髄増殖性疾患です。以前は、瀉血療法、抗血栓療法、化学療法で治療が行われていましたが、JAK2遺伝子の変異が原因と言うことがわかり、JAK2阻害剤で治療をおこなうと約半数の方の脾臓の大きさが小さくなりました。結論は、JAK2阻害剤の使用で赤血球、血小板のコントロールが可能になり、脾臓を縮小させ生活の質の向上ができることが分かりました。
最後に成人T細胞白血病です。非常に寛解率が低く難しい病気で抗がん剤治療でも散々たる結果でした。そこでベサノイドという治療薬が登場し、ATL細胞が減少し腫瘍マーカーの数値も下がる現象がありましたし骨の浸潤も減ることがわかりました。完全寛解には至りませんでしたが部分寛解が40%と内服薬にしては良い結果が出ました。もうひとつの治療薬ポテリジオですが、効果は50%に見られ、30%が完全寛解し個人のNK細胞の機能により治癒する可能性もあります。
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