講演:がん治療の最前線(1)
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今回の講演テーマは「がん治療の最前線」です。
はじめに、近畿大学腫瘍内科教授 中川和彦先生から「肺がん治療の最前線」をテーマにご講演を行っていただきます。 腫瘍内科というのはがんの薬物療法を専門にしている科です。その中でも今日は肺がん治療の最前線をお話ししたいと思います。近年では男性も女性も肺がんは亡くなる方が最も多い病気となりました。急速に増加しているということです。レントゲンやCTやPETで疑わしいとなると気管支鏡検査で組織を取り出し病理診断を行います。
がんというのは遺伝子の病気と言われており、この遺伝子はちょっとしたことで変化しやすいということが最近分かりました。タバコを吸っていたりして汚れていたりするとその影響で遺伝子変異がおこりがんが発生しやすいといわれています。つまり肺がんというのは遺伝子の異常で、遺伝子の中にはがんを起こさせるがん遺伝子と、がんを起こらせないようにするがん抑制遺伝子がありますが、このアクセルとブレーキのバランスが崩れるとがんになるのです。今までは細胞組織的に考えられていたものが、これからは新しい遺伝子の分析によって治療の分類を行い治療戦略を考えて行く時代になってきました。
ところで最近のがん治療の話です。もちろん個人差はありますが、抗がん剤治療は通院で行える様になり副作用も少なく抑えることができ、以前よりは比較的楽に治療を受けられる様になりました。また通院治療センターも各所で開設されていて快適な環境で治療を受けることが可能になりました。抗がん剤治療では、約30?40%の人で腫瘍が小さくなりますが再発した場合は10?20%とだんだん効果が効かなくなってくると言われています。進行したがんに対する抗がん剤治療の第一の目的は生活の質を維持して改善することです。
そこで最新の話題に触れていきます。分指標的治療という新しい薬物療法が登場して来ました。肺がんの35%ぐらいは何故がんになったのかという根本的な理由が分かる様になり、従来では組織学的に診断されていたものが現在では遺伝子レベルで診断される様になり、何がアクセルとして働いているのかが分かる様になりました。従来の抗がん剤では約30?40%の人しか腫瘍が小さくならなかったのに対し、分指標的治療が可能な肺がんについては60?80%の人が腫瘍を小さくすることができるようになりましたし、がんが再発するまでの時間も長く保たれるようになりました。ですので分指標的治療薬の効果が期待できるかどうかを遺伝子レベルで調べることが重要です。今年ある新しい分指標的治療薬が開発されました。近畿大学もその開発に参加しその臨床試験の結果、効果が実証されています。つまり肺がんの確定診断は、病理学的な検査をすることも重要ですが、これに加えてアクセル遺伝子の異常がないのかどうかをしっかり見極めて治療戦略を立てることが非常に大事になってきました。
私たちはいろんな道具を手に入れてきました。肺がんは非常に治療が難しいがんと言われてきましたが、それでも私たちの手には新しい武器がたくさん手に入ろうとしています。いつの日か、かなり近い将来に勝利を得られる日は近いのではないかと思います。
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