神戸 章 先生の講演このページを印刷する - 神戸 章 先生の講演

2014年5月17日開催 第15回 がん診療アップデート がんの予防・早期発見 開催レポート
  がん診療アップデート会場
 開講の挨拶
 細野 眞 先生の講演
 神戸 章 先生の講演
 堀内 哲也 先生の講演
 陰山 麻美子 先生の講演
 原 千晶さんの講演(1)
  原 千晶さんの講演(2)
 原 千晶さんの講演(3)
 閉講の挨拶
 
神戸 章 先生の講演


「がんの予防と早期発見(肝癌と胃癌の予防)」 かんべ診療所 神戸 章 院長

がんの予防と早期発見についてお話しさせて頂きます。
過去30年間の大阪府下のがん発生数は、右肩上がりですべてのがんは上昇しています。最近は男性が前立腺がん、女性が乳がんの増加が目立ってきています。大阪府下の人口は2000年頃からは減少傾向にありますが、がんの発生数は右肩上がりです。なぜこのように上昇しているのでしょうか。

実はこれは人間の平均寿命の伸びと関係しています。哺乳動物の平均心拍数と平均寿命の関係を見てみますと、心拍数の多い動物は平均寿命が短くて心拍数の少ない動物ほど平均寿命が長いということが分かっています。心拍数の多いネズミ類は約200~300の心拍数で平均寿命は2年程。心拍数の少ないクジラは30以下の心拍数で平均寿命は40年ぐらい。間をとって犬や猫は心拍数は150~200ぐらいで平均寿命は10年少し。これでいくと人間は60~80の心拍数で平均寿命は30年ぐらいのはずです。これは乳児死亡もの含めての数ですのでそれを差し引いて換算すると大体45~50年が本来の平均寿命だと言われています。しかし医学の発達によって現実は男性で80歳近くまで、女性は80歳を越える平均寿命となっています。ではなぜ平均寿命が伸びたらがんの発生が増えるのでしょうか。
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かんべ診療所 神戸 章 院長

ヒトはオギャアとこの世に生まれてきてから天寿を全うするまでに体の中の細胞は約50回生まれ変わります。細胞が細胞分裂をして入れ替わるのですが、若い間は頻繁に入れ替わりますが年齢を重ねるとペースがゆっくりになってきます。細胞の核の中にある染色体が一番重要なのですが、ここを守るテロメアという部分が核分裂を繰り返すたびに少しずつ短くなってきます。すると染色体がふやけてきますし分裂もゆっくりになってきます。つまり人間が年をとってきたら人間の体の中の細胞も同じように老化してくるのです。ヒトの体には約60兆200種類の細胞があります。それが50回も繰り返し入れ替わっていくわけです。中には少しできの悪い細胞や未熟な細胞や変わった細胞が出てきます。その多くは自分自身の力で処理されて消えていくのですが、一部その中で活発に活動して増えていったのががん細胞です。つまり歳をとることはがんになりやすいということなのです。
ということで考えますと、すべての種類のがんで発生数が年々増えてきていいはずなんですが、肝臓がんは年々減ってきています。胃がんも伸びていくペースが落ちてきています。
今日はこの肝臓がんと胃がんについてお話しさせて頂きます。
これらのがんの原因ですが、肝臓がんは肝炎ウイルスです。胃がんはヘリコバクター・ピロリ菌です。


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肝炎ウイルスについてお話しします。人の体に肝炎ウイルスが感染すると5~10年の経過でその期間の炎症によって表面がザラザラと変化してきます。10~20年の経過で肝硬変というボコボコの肝臓に変化してきます。ちなみに肝炎ウイルスに感染していない場合は60になっても70になってもきれいな肝臓のままです。このように慢性肝炎や肝硬変になると、その中で肝細胞に継続的に炎症があるわけですから突然変異を起こして肝臓がんが発生してくるわけです。慢性肝炎から肝臓がんになる人もいたり肝硬変から肝臓がんになる人もいます。しかし1990年からインターフェロンという治療がはじまり数年後には経口抗ウイルス薬が登場してきたことによって、慢性肝炎や肝硬変の状況から肝炎ウイルスを駆除することが可能になりました。それと同時に肝臓がんの発生が減ってきています。

続いてヘリコバクター・ピロリ菌についてお話しします。ヘリコバクター・ピロリ菌は、今から20年前は胃潰瘍の原因といわれていました。その後研究が進み胃のリンパ腫の原因だと言うことも分かり、血小板減少性紫斑病の原因であることも分かり、胃がんの発生原因であるということも分かりました。今は毎年12万人ぐらいの人が胃がんになっていますが、そのほとんどがヘリコバクター・ピロリ菌が関連した胃がんであることが分かっています。ピロリ菌に感染すると赤くただれてきて、時には充血します。充血した状態で20~30年経過すると確かにがんになりやすくなるでしょう。ヘリコバクター・ピロリ菌に感染している人としていない人を10年にわたって観察した研究報告があります。ピロリ菌に感染している人は2.9%で胃がんが発生しましたが、ピロリ菌に感染していない人では胃がんは発生しませんでした。平成25年からヘリコバクター・ピロリ菌の除菌治療は保険適用を認められました。ただ保険適用には内視鏡検査が必須となっています。当診療所でも多くの方に除菌治療をしていますが、身にしみて思うことがあります。除菌が成功しても胃がんになる可能性があるということはご理解ください。毎年除菌治に成功しても胃の検査を受けるということは続けて頂きたいのです。除菌治療というのは一回目の治療で約80%、二回目の治療で95%成功します。ただし途中で薬を止めたりいい加減に飲んでた人はなど、約5%の人が失敗します。一次治療・二次治療で失敗して耐性菌になった場合非常に治療困難となりますので、治療をされる場合はきちんと内服をお願いします。

当診療所に「私は10年医者にかかってない」「20年医者にかかってない」ということを仰る方が来ますが、きっちり検査を受けて大丈夫といわれて初めて健康といえるのです。
肝臓がんと胃がんは、肝臓がんは肝炎ウイルス、胃がんはヘリコバクター・ピロリ菌を、それぞれ駆除することによって発生率は減少します。
せっかくこのような時代に皆さんおられるのですから、積極的に検査を受けてがん予防に参加してください。