鎌田實先生の講演(1)
|
さてご来場の皆様も楽しみにされていた、鎌田實氏による講演の始まりです。
大阪南医療センターがこの地域のがん連携拠点病院ということで、がんのことを住民の方々に理解していただくということでこのような勉強会をなさっているということを聞きました。
先程の一番始めの講演のところで緩和医療の話がありました。その中で人間の痛みの中には4つあって、その4つの痛みを取って行く、ということでしたが、それは覚えておくといろんなところで役に立ちます。体の痛みだけではく、心の痛み、社会的な痛み、霊的な痛み、の4つの痛みあります。
WHOが「健康とは何か」というものを定義しているのですが、 1)体の健康 肉体面での健康 2)心の健康 精神面での健康 3)社会的な健康 仕事・収入等の社会的な面としての健康 4)霊的な健康 自らの存在意義を問う等のスピリチュアル面での健康 やはりこの4つなんです。 自分ががんになった時だけでなく、身近な人ががんになった時にもこの4つを心にとどめておくことにより、当人の気持ちが理解しやすいのではないでしょうか。 その当人にとっても近くの人が自分の気持ちが解ってくれることによって、がんと闘いやすくなると思うのです。 今日はこの4つが人生を生きて行く上で非常に大切だということが分かると思います。
女川に3月の末に入った時の話です。30台の女性を診察した時ですが、女性は眠れないというのです。
睡眠薬を飲んでいるけど眠れないんです。これはじっくり聞いてあげる必要があるなと思いました。医者がゆっくり聞いてあげる空気をつくるのは非常に重要なことですよね。緩和ケア病棟を開設しているんですけど、僕が忙しい空気かゆっくり聞ける空気かというのは患者さんは結構上手に見抜きます。ゆっくり話を聞いてあげる空気をつくると、患者さんは悩んでいることを話してくれたりするんですよね。ですので、医者がゆっくり聞いてあげる空気をつくるのは非常に重要なんです。
私も一生懸命探す手伝いをしました。一生懸命探して見つからなかったら上の娘さんもいるのだから前を向いて行きましょうねと伝えました。すると女性は「できるだけのことをしたら私も前を向けるかも分かりません。」と言いました。
ラジオで放送して3日後、見つかったと連絡が入りました。
しかし亡くなっていました。 女性はもう一回抱きしめてあげることができてよかった。と言いました。 その女性は前を向いて歩きはじめました。 女性は代々のお墓参りに行ってきました。親戚中みんなのお墓も参って来たそうです。
私の息子は亡くなったけど上と繋がっていることを感じました。とメールをくれました。 女性は、先祖代々脈々と繋がっている命のことに気がつきはじめたんですね。 もしご家族や友人ががんになったとしたら。自分がもしがんになったら。とその立場になってみることが大事です。自分がその立場だったらどうしてもらいたいのかな、と考えることがすごく大事です。
私は相手の身になってということで地域医療をやってきました。
32年前に諏訪中央病院に赴任した時は脳卒中が非常に多い時期でした。自分が寝たきりになったら、と考え、往診や訪問看護を始めました。しかしそれだけじゃ問題解決出来ないなと思いました。介護する側の人のことも考えて、介護されている人を一日だけでも預けられるサービスを考え、日本で初めてのデイケアを始めました。それが今のデイサービスやデイケアセンターの先駆けとなり政府が制度を整えて広まったのです。これはすべて「僕がその立場だったらどうやったらいいのか」ということを考えてやってきたからだと思います。今回の被災地に入ったときも同じように考え行動しました。 頑張って!元気出せ!そんな言葉なんかいらない。 「人間が困難に直面したとき、働くこと、愛することの二つがあれば人間はどうにか生きていける」と哲学者フロイトの言葉です。今回被災した人はこの二つをなくしてるかたが多いのです。そういう点で立ち直りにくく傷は深いです。 しかし人間って強いもので最悪の状態ならばそのちょっとだけ上の良いことを探すんですね。父と母が亡くなった、しかしこうやって遺体が見つかってよかった、しかも父と母が一緒に見つかりました。離ればなれにならなくて良かった。と言うふうに・・・こうやってちょっとだけ良いことを探しながら生きていこうとするんです。
|