がんに関する講演このページを印刷する - がんに関する講演

2011年8月27日開催 第12回 がん診療アップデート がんに負けないで生きる 「がんばらない」けど「あきらめない」 開催レポート
 がん診療アップデート会場
 開会の挨拶
 がんに関する講演
 鎌田實先生の講演(1)
 鎌田實先生の講演(2)
 鎌田實先生の講演(3)
 閉会の挨拶

今回の講演テーマは「がん診療の実際」です。
近畿大学医学部附属病院からは、がんセンターの原聡准教授。大阪南医療センターからは、がん性疼痛看護認定看護師の村口さつき、主任医療社会事業専門員の萬谷和広、がん専門薬剤師の森本茂文が、講演いたしました。ご来場の皆様も真剣に聴講されておられました。


「がんの痛みはなぜとるの?どうやってとるの?」 近畿大学医学部附属病院がんセンター准教授 原 聡

がんの痛みはなぜ取らないといけないのか、またどうやって取るのかをお話しさせていただきます。今日のお土産といったら大それた物になりますが、今日覚えて帰っていただきたいことがあります。今後の皆様やご家族の医療のことについて参考になればと思います。
1)身体の痛みは気持ちのつらさや社会的な痛みを招きます
2)がんの痛みの80%は取り除くことができます
3)緩和ケアは終末期のみではありません
4)医療用麻薬には習慣性や依存性はありません
5)医療資源を活用しましょう
この5つを覚えて帰っていただければと思います。

近畿大学医学部附属病院がんセンター准教授 原 聡
近畿大学医学部附属病院がんセンター准教授 原 聡
スクリーン
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がんの痛みは、がん自体が原因となるもの、がんの進展に関連した痛み、がん治療が原因となった痛みがあります。その痛みというものを4つの因子に分けてみると、
1)身体面の痛み 肉体面での痛み
2)心理面の痛み 精神面での痛み
3)社会面の痛み 経済面の痛みや社会的地位の喪失等の痛み
4)霊的な痛み 自らの存在意義を問う等のスピリチュアル面での痛み
の4つに分けられます。これらは常に相互に絡み合っています。これが全人的痛みと言いまして、我々はこれを非常に大事にしています。これらは生活の質(QOL)に影響を及ぼします。
そのような辛い状況の中でも諦めずに生きて行く時に緩和ケアという言葉を使わせていただきます。これは、患者さんの苦痛をなるべく軽減し、患者さんとその家族がより豊かな生活を送れるように病気が分かった時点から援助する治療や看護のことです。

ではその方法ですが、外科的な処置、医療用麻薬の投与、心のケアなど、総合的に解決していくことになります。
我が国で利用できる緩和ケアの資源としましては、在宅看護支援診療所、訪問看護ステーション、緩和ケアチーム、緩和ケア病棟、居宅介護支援事業所等がありますし、地域での詳しい情報は、大阪南医療センターや近畿大学医学部附属病院のような、がん診療連携拠点病院の相談支援センター(地域医療連携室)に問い合わせて入手してください。
こういう方法もあるということで後の講演者に引き継ぎます。
がんの治療を進めて行く中でできるだけ早い段階から緩和ケアというものを利用して穏やかにあきらめずに頑張っていただける様な環境を作って行ければと思っています。


「がんの痛みと上手に付き合っていくために?看護師の立場から?」 がん性疼痛看護認定看護師 村口 さつき

認定看護師という言葉をあまりお聞きになったことはないと思います。認定看護師というのは、日本看護協会に認定された看護師のことで「特定の看護分野において熟練した看護知識を有することを認められた」看護師のことをいいます。今では21分野の認定看護師の資格があります。認定看護師の役割は
1)実践 がんの痛みに苦しむ患者さん・ご家族への緩和ケア
2)指導 看護師に対する教育
3)相談 ケアの方法について看護師から相談を受ける
の3つがあります。

がん性疼痛看護認定看護師 村口 さつき
がん性疼痛看護認定看護師 村口 さつき
スクリーン
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がんの痛みに苦しむ患者さん・ご家族への緩和ケアについては、緩和ケアサポートチームで行います。医師、看護師、心理士、栄養士、薬剤師、ソーシャルワーカー、理学療法士が協力し、痛みやその他の原因とそれに対応するサポートチームで動いています。

がんになると・・・身体的な苦痛、心の苦しみ、社会的な苦痛、自分自身の存在が消えてしまうことへの漠然とした感情(スピリチュアルな苦痛)が出てきます。
緩和医療を早い段階からなぜするのか、なぜ痛みを我慢してはいけないのかということですが、痛みがあることで免疫力が低下してより痛みを感じやすくなる「痛みの悪循環」が起こるのです。痛みを取り除くことによって、これからのことを考えることができる、治療に前向きになれるのです。ですので痛みを取り除くことはすごく大切なことなのです。

がんの痛みと上手に付き合うポイントですが、
1)痛みを表現する 強さ・部位・性状・痛みがあることでの弊害を詳しく伝える
2)痛み止めをうまく使う 決まった時間に痛みのパターンにあわせて動く前に飲む
3)一人で悩まない 痛みや違和感があれば医師や看護師にすぐ相談する

私たちの役割は、患者さんとともに痛みの治療を続けることで、患者さんらしい生活を送ることができるお手伝いをさせていただきます。またいつでも相談にお越しいただければと思います。


「がん相談支援室利用方法と実例と解決」 主任医療社会事業専門員 萬谷 和広

現在多くの方ががんを患っている状態の中で国が「どの地域でも高度ながん治療が受けられるように」ということで各地域にがん診療の拠点になる病院(がん診療連携拠点病院)を設置しました。この辺りであれば、大阪南医療センターや近畿大学医学部附属病院ががん診療連携拠点病院に指定されました。がん治療とともに療養生活をサポートする窓口としてがん相談支援室が設けられました。がん相談支援室では患者さんだけでなく患者さんのご家族の療養生活のお困り事に対して相談に乗りその問題解決のためのサポートを行います。

主任医療社会事業専門員 萬谷 和広
主任医療社会事業専門員 萬谷 和広
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がんと診断されると、誰もが「早く治療して良くなりたい」と考えるのは当然です。しかし、癌の治療を進める中で、治療の障害となる出来事が出てくることがあります。入院時には、病気の問題、精神的な問題、経済的な問題、家族の問題が出てきますし、退院後は、自宅生活の問題、療養の場の問題が出てきます。これらを解決していかなければ治療に専念することが難しくなってしまいます。

経済的な問題をピックアップして説明いたします。
まずどのぐらいの医療費がかかるか心配になりますよね。しかし高額療養費制度という医療費の上限を越えた場合払い戻しされる制度があります。入院が決まったらすぐに限度額適用認定証の発行手続きを行っておくなどの方法もあります。がん相談支援室にその申請書もございますのでお声かけください。

このようにがん相談支援室はこれらのがんの治療に伴って生じる様々なお困り事のご相談をお受けし、解決に向けてのサポートをさせていただくところです。当院での治療の有無やお住まいのある地域を問わず、どなた様でもご相談をお受けしております。お気軽にご相談下さい。
>> 当センターホームページのがん相談支援室ページ


「がん薬物治療を発展させ、支えていくためのがん専門薬剤師の役割」 がん専門薬剤師 森本 茂文

最近は薬剤師もかなり専門化してきております。院内感染対策チーム、褥創対策チーム、栄養サポートチーム、癌化学療法チーム、緩和ケアチームの一員として、チーム医療に貢献しています。がん専門薬剤師とは、がん医療、特にがん薬物療法に必要な高度の知識、技能、臨床経験を修得した薬剤師をいいます。がん専門薬剤師の目的は、地域においてがん専門薬剤師を養成することにより、がん医療水準の均てん化を推進することを目的としています。

がん専門薬剤師 森本 茂文
がん専門薬剤師 森本 茂文
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がん治療を支えていくための薬剤科の抗がん剤監査業務の充実を図っています。
近年、多忙な医師のみによる管理で引き起こされた抗がん剤による医療事故があり専門的な薬剤の知識を持つ薬剤師による厳重な管理が必要となったのです。
大阪南医療センターの抗がん剤監査体制は、
1)各診療科から抗がん剤の全ての治療計画(プロトコール)をあらかじめ薬剤科に提出し登録する制度を設ける
2)プロトコールの提出にあたっては、科学的根拠を示す資料も一緒に添付し、化学療法委員会にて医師などが協議した治療計画が採用される
3)登録のないプロトコールについては処方できない
4)抗がん剤実施前日に準備処方箋として出力され薬剤科で監査される
手順になっています。このような手順によって、抗がん剤の事故を防止する何重にも張り巡らされたチェック体制と、薬剤科が医師に紹介しやすい体制を確立しています。

がん薬物治療を発展させるためのがん専門薬剤師と臨床試験データマネージャーによるがん臨床試験のサポートもおこなっています。
大阪南医療センターの基本理念に「今後の医学・医療の発展に向け、積極的に臨床研究を行います。」と明記されています。臨床試験の中には治験というものがありまして新薬としての承認を得ることを目的とした試験をしています。がん臨床試験はこれまで厚生労働省で承認された薬、治療法や診断法から最良の治療法や診断法を確立すること、薬のより良い組み合わせを確立することを目的としています。がん化学療法は臨床試験で発展するのです。
がん臨床試験は、参加する患者さんの治療の利益に対する配慮が最優先されなければならず、科学的、倫理的な面など、質の高い試験の実施が求められています。そのためには医師だけでなく様々な試験支援スタッフの存在が不可欠となります。
当センターは医師だけでなく、がん専門薬剤師、がん臨床試験データマネージャーによる全面支援を行った結果、がん臨床試験の迅速性・正確性の向上が実現し、世界に向けて情報を発信しています。