虚血性心疾患とは

(図1)
心臓を構成する心筋細胞は、冠動脈により栄養されており、この血流を受けて心臓全体が循環を司るポンプとしての役割を果たしています。
しかし、この冠動脈が障害されれば、心筋細胞への血流低下を招きえます。
冠動脈を障害するものとして代表的なものは動脈硬化であり、これは血管の加齢現象です。
血管の壁の中に、コレステロールを主成分とした動脈硬化巣(=プラーク)が形成されることにより血管の通り道が狭くなり、血流の低下が起こります(図1)。
これにより、血液供給が需要を下回れば心筋細胞は本来の役割を果たせなくなります。
この状態を虚血といい、虚血を起因とする心疾患を総称して虚血性心疾患と呼びます。
いわゆる狭心症や心筋梗塞がこれに含まれます。
なお、これを促進させる危険因子として、加齢(男性45歳以上、女性55歳以上)の他、喫煙、高血圧、糖尿病(予備軍を含む)、高コレステロール血症、肥満、冠動脈疾患の家族歴などが指摘されています。
我が国では、高齢化や生活習慣の欧米化に伴い、動脈硬化性疾患が年々増加しています。

狭心症

前述の通り、プラークの形成により血管の通り道が狭くなると、血液供給が低下します。特に、運動している状態(階段や坂道を上る、急いで歩く、などでも)では血液需要が大きくなるため、虚血が生じやすい状況になります。
この際、胸が痛くなる、あるいは苦しくなるような症状(胸が締め付けられる、胸が圧迫される、などと表現されることがある)を伴うのが狭心症です(図2)。
一般的には、動作時に誘発され、安静で数分以内に軽快します(=安定狭心症)。ただし、労作時のみならず安静時にも上記症状を自覚したり、頻度が増加するなどの状態であれば、心筋梗塞への移行のリスクが高い比較的危険な狭心症(=不安定狭心症)として扱われます。

心筋梗塞

プラークが、何らかのきっかけで破れることがあり、ここに血栓(=かさぶた)が付着すると、急速に血管が詰まってしまうことがあります。
この状況では、血液供給が著しく低下し(途絶えることもあります)、虚血を超えて心筋が死んでしまいます(=心筋壊死)。
この状態が心筋梗塞であり(図3)、一般的には突然発症し、30分以上続く胸の痛み・苦しさを伴います。また、冷や汗や吐き気・嘔吐を伴うこともあります。心筋梗塞は、狭心症よりも致死性が高い危険な疾患です。なお、不安定狭心症と心筋梗塞を総称して急性冠症候群と呼びます。

統計

死因統計では、第1位は悪性新生物(がん)であるが、第2位は心疾患となっており、虚血性心疾患もここに含まれます(図4:厚生労働省HPより)。

検査・診断

虚血性心疾患の可能性が疑われる場合、非侵襲的あるいは侵襲的な方法での検査を行います。機能的に虚血を評価する方法と、血管の狭窄度を画像で評価する方法に大きく分かれます。

負荷試験:心筋細胞に負荷をかけ、虚血を誘発し、心電図変化や特殊な薬剤の心臓への集積具合を評価

1) トレッドミル・エルゴメーター運動負荷試験
心電図の計測装置を体に装着したまま、決められたペースに従って、ランニングマシンの上を歩く、あるいはエアロバイクをこぐという運動で心臓に負荷をかけます。この際、前述のような症状が再現されるか、あるいは、虚血を疑わせる心電図の変化が出ないかを観察し、虚血性心疾患の有無を判断します。

2) 負荷心筋シンチグラフィ
エアロバイクをこぐという運動負荷、あるいは冠血管拡張薬を投与するという薬剤負荷のいずれかで心臓に負荷をかけます。また、負荷の最中に、心臓に集まる物質である放射性同位元素(アイソトープ)を点滴から投与します。負荷中は、トレッドミル・エルゴメーター運動負荷試験同様、前述のような症状が再現されるか、あるいは虚血を示唆する心電図の変化が出ないかを観察します。さらに、負荷後は直後および数時間後に2度撮像を行い、負荷中に投与したアイソトープがどのように心臓に集まっているかを評価し、虚血性心疾患の有無を判断します。

画像検査

1) 冠動脈CT
前述のとおり、虚血性心疾患は通常、冠動脈の動脈硬化による血管の狭窄や閉塞が原因となります。このため、造影剤という薬を点滴から投与して冠動脈を造影し、CT装置で撮影を行います。これにより得られた画像をコンピューター上で再構築することでコンピューター上にご本人の冠動脈を再現し、狭窄や閉塞の有無を判断します。

 2) 冠動脈造影検査(カテーテル検査)
上記のような検査で虚血性心疾患の可能性が高いと判断された場合、あるいは、上記の検査が未施行でも症状等から可能性が高いと判断された場合に行われます。手首や肘、足の付け根の動脈からカテーテルと呼ばれる管状の医療器具を挿入し、その先端を冠動脈の入り口にひっかけ、そこから直接冠動脈内へ造影剤を注入し冠動脈を造影することで血管の狭窄・閉塞の有無を判断する、確定診断法です。なお、心筋梗塞が疑われる場合は、直接この検査を緊急で行います。

治療

虚血性心疾患における治療の目的は、心筋虚血や梗塞の解除です。
この手段としては、抗血小板薬(いわゆる「血をサラサラにする薬」)や血管拡張薬を主体とした薬物療法と、狭窄や閉塞による血流低下そのものを改善させる血行再建術があります。
症状が安定している場合は、主に前者での治療を行い、それでも改善がない場合や、症状の程度が強いとき、あるいは急性心筋梗塞のときには血行再建術を考慮します。
血行再建術は、内科で行う血管内治療(経皮的冠動脈形成術)と、外科で行う冠動脈バイパス手術とに大きく分かれます。

血管内治療(カテーテル治療)

前述の冠動脈造影検査の際と同様に、カテーテルを用いて冠動脈内へ直接アプローチし、狭窄や閉塞に対し、血管の内側から治療を行うものです。
具体的には、狭窄や閉塞を、バルーンと呼ばれる風船のついたカテーテルを用いて拡張したり、ステントと呼ばれる金属の筒を同箇所に留置したりして血管内腔を確保します。
基本的には局所麻酔で行い、侵襲度に比して高い治療効果が見込まれます。また、繰り返し行えるという利点もある一方、異物を留置するため、血栓(=かさぶた)がこれに付着することでステントが詰まってしまう(=ステント血栓症)危険性があります。
これを予防するために、治療後は抗血小板薬の内服が必須となります。

冠動脈バイパス手術

「バイパス」とは「迂回(うかい)」を意味し、冠動脈バイパス手術では、道路のバイパス同様、血流の迂回路を作成します。
具体的には、自身の胸や手首・胃の動脈の一部、あるいは足の静脈の一部を利用して、狭窄や閉塞の前後の健常部同士をつなぎ合わせることで、狭窄や閉塞している箇所を血流が通過せずとも末梢まで血液を供給できるようにする手術です。
一般的には全身麻酔下に胸の骨を開いた状態で行われ、異物を残さずに行える上、一度に複数個所の血行再建を行うため治療効果も十分に高いと言えます。ただし、やはり侵襲度が高いというデメリットはあります。

最後に

胸の痛みがある、あるいは胸の症状がなくても糖尿病や高コレステロール血症などの持病を多く抱えている、自分の家族に虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)と診断され治療を受けている人がいる、など、気になることがあれば気軽に受診してください。
上記の検査法で虚血性心疾患の有無を判断し、必要に応じて治療を提案させていただきます。