部門の特色
脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血といった突然に発症する脳卒中は、本邦では死亡原因の第4位、寝たきりとなる原因の第1位を占める重大な疾患です。特に近年は脳梗塞に対する超急性期の治療が進歩し、発症4.5時間以内の脳梗塞に有効とされる血栓溶解剤静注療法(tPA療法)や脳血管内治療というカテーテルによる血栓回収術が行われるようになりました。さらに脳卒中専門病棟での集約的治療の有用性が証明され、脳卒中は発症後できるだけ早く専門病院にて治療を開始することが生命予後だけでなく、機能的な予後も改善することが判ってきました。
当センターでは2012年4月より脳卒中センターを開設し、脳卒中を生じた患者様に最新で最良の脳卒中急性期医療を提供できる体制を整えています。さらに患者様の家庭復帰、社会復帰に寄与できるよう回復期リハビリ病院やかかりつけ医との連携をとりながら包括的医療を行っています。
24時間365日の脳卒中診療体制
脳卒中専門医が院内に常勤し、24時間脳卒中救急の受けいれを行っています。河内長野市、富田林市、大阪狭山市、羽曳野市をはじめとする南河内地域だけでなく、他県よりの救急も広く受け入れます。頭部CT,MRI、脳血管撮影がいつでも施行可能で、迅速な病態評価により超急性期脳卒中治療を開始できます。
脳血管内科医(5名)、脳神経外科医(3名)が協力して、患者様ひとりひとりに応じた最適な治療計画を立案し、必要に応じて脳血管内手術、脳神経外科手術がスムーズに施行可能な体制を整えています。
専門的スタッフによる脳卒中チーム医療体制
脳卒中専門医、看護師、薬剤師、放射線科、理学療法士、作業療法士、言語嚥下療法士、そして医療ソーシャルワーカー等の各種専門職が協力して集学的な脳卒中チーム医療を推進し、急性期から回復期、そして慢性期脳卒中治療への円滑な移行を図ります。
主な業務と実績
脳梗塞
超急性期治療
tPA治療について
脳に酸素や栄養素を運んでいる動脈がつまると、脳の神経細胞は時間がたつほどドンドン弱ってしまい、ついに神経細胞が死んで(壊死)しまって回復できなくなります。ところが死んでしまった脳神経細胞(壊死巣)の周囲には、脳血流が再開すると元の状態に回復できる部分があります。そこで、脳の細胞が完全に死んでしまう前に、血管を詰めている血栓(血の固まり)を溶かし、血流を再開することで脳の働きを取り戻そうというのが、血栓溶解療法です。動脈が詰まって間もないうちに、血液の流れを回復させれば、症状も軽く済みます。現在のところ、脳梗塞発症から4.5時間以内であればt-PA(tissue-plasminogen activator:組織プラスミノゲン活性化因子)製剤による、血栓溶解剤療法(tPA治療)を開始することができます。ただし、tPA治療により脳の血流を回復させてやると、壊死巣に出血を起こす危険性も高いので(出血性梗塞)、この治療の適用には慎重でなければならず、投与してはならない臨床所見、検査所見、画像所見、既往歴などを確認する必要があります。全国調査(J-MARS)によるとt-PA治療を行うことにより、3ヶ月後に身の回りのことが介助なしに行える患者様の割合は33.1%でした。つまりt-PAを投与することで、3人に1人は日常生活をご自分で行うまで回復できました。一方、症状が出るような頭蓋内出血(症候性頭蓋内出血)の頻度は、投与後36時間以内が3.5%、3ヶ月後が4.4%でした。3ヶ月以内の全死亡率は13.1%、症候性頭蓋内出血による死亡率は0.9%でした。
脳血管内治療について
tPA治療の適応にならなかった超急性期の患者様、あるいはtPA療法を行ったにもかかわらず脳卒中症状が改善しない場合には、発症から8時間以内であれば脳血管内治療(カテーテル手術)による血栓回収療法が選択される場合があります。薬で溶けなかった血栓を、血管の中からカテーテルで血栓を除去する治療です。血栓の部位や大きさによって、ポンプの力で血栓を吸い取るカテーテル、ステントいう金網に血栓を絡めて引きずり出すカテーテル、風船で血栓を押し広げる方法、血栓を溶かす薬を血栓の間近で注入する方法など様々な治療法を使い分けて、血栓の回収を試みます。近年、カテーテルの性能向上に伴い、再開通率が向上しつつある治療です。早期の再開通による劇的な回復が得られる場合もあります。しかし、tPA治療と同じく、すべての患者様が適応となるわけではありません。また、固い血栓や大きな血栓などで、どうしても血栓が回収できないことがあったり、再開通できてもすでに脳梗塞が完成してしまっていて、症状が改善できないこともあります。さらに、脳血管という非常に脆弱な血管に対する治療のため、通常の点滴治療に比べて、治療中や治療後の脳出血やくも膜下出血の合併リスクが高まると考えられています。
くも膜下出血
急性期治療
くも膜下出血の特徴的な症状は「突然の、今までに経験したことがないような頭痛、あるいはバットで突然頭を殴られたような痛み」です。くも膜下出血は脳の動脈の分岐部にできたコブ(脳動脈瘤)が破裂することによって生じます。一度破裂した動脈瘤は再破裂することによりさらに重症となることが知られています。したがって、くも膜下出血急性期治療の第一段階は再破裂を予防することであり、この治療には開頭による脳動脈瘤頚部クリッピング術と血管内治療による脳動脈瘤のコイル塞栓術があります.当センターではどちらの治療法も行っておりますが,動脈瘤の部位や形状,患者様の状態に応じて,より適切な治療法を選択しています。
開頭脳動脈瘤頚部クリッピング術
開頭を行い、手術用顕微鏡下に脳と脳の隙間を丁寧に剥離し、破裂した脳動脈瘤の頸部(動脈瘤と正常の血管の境界)に金属製のクリップをかけ(脳動脈瘤ネッククリッピング術)再破裂を予防する方法です。
血管内治療 脳動脈瘤コイル塞栓術
脳動脈瘤コイル塞栓術はカテーテル(細いチューブ)を足の付け根の大腿動脈から挿入し、大動脈を通り頭部の脳動脈瘤まで誘導します。このカテーテルを通して塞栓物質(極めて細いプラチナ製コイル)を脳動脈瘤の中に詰め、脳動脈瘤内に血液が流れ込むのを遮断することで再破裂を予防します。
脳動脈瘤の手術後に乗り越えるべき問題点
- 脳血管攣縮
くも膜下出血が生じた後、約3日目から2-3週間後に脳血管が攣縮(れんしゅく)を起こして細くなることがあります。その程度によって無症状の場合から、脳梗塞が生じ手足の運動麻痺や言語障害、意識が悪くなったりする場合もあります。さらに非常に強い場合は大きな脳梗塞から脳腫脹を生じて死に至る可能性もあります。 - 水頭症
くも膜下出血により脳で作られる水(脳脊髄液)の流れや吸収が障害されて,脳室に髄液が過剰に貯留し,水頭症という状態を生じる可能性があります。
脳内出血
原因
最も多い原因は高血圧によるものです。 長年の高血圧症によって脳の深い部分の小動脈の動脈硬化がすすみます。 血圧の上昇に耐えられなくなった血管が切れて脳内に出血すると考えられています。
症状
多くは手足の運動麻痺や喋りにくさなどの言語障害、強いめまいや吐き気など、さらには出血が重度の場合には意識障害が認められます。 急に病状が生じることが多く、救急車で来院されることがほとんどです。
治療法
薬による治療により血圧や脈拍を安定化させて、止血剤や脳圧、脳浮腫を下げる薬剤を投与します。脳内出血の程度や病態により手術の適応が考慮される場合には、当院では幾種類かの下記手術法から病状に応じて判断し手術治療をおこないます。
- 頭蓋骨を開いて脳内血腫を取り除く手術法(開頭脳内血腫除去術)
- 小さい穴を頭蓋骨に開けての手術法(定位脳手術装置を用いて細い管で吸引除去する手術法、神経内視鏡を用いて血腫除去する手術法、ドレナージ術など)
代表症例
局所麻酔下に神経内視鏡を用いて頭蓋骨に開けた小さな穴から手術をおこないました。言語障害と右半身の麻痺が改善しました。神経内視鏡手術では、従来の開頭血腫除去術に比べ、手術時間の短縮や、低侵襲であり、局所麻酔でも対応可能などの利点があります。
TOPICS
部門の体制
奈良県立医科大学大学院
医学博士
日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、脊椎脊髄外科専門医
日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、脳卒中の外科学会技術指導医、臨床研修指導医
日本脳卒中の外科学会技術認定医、日本脳神経外科学会専門医
脳血管内治療
奈良県立医科大学大学院
医学博士(奈良県立医科大学)
日本脳神経外科学会専門医、日本脳神経外科学会指導医、日本脳神経血管内治療学会専門医